2025/12/04
インバーゴードン36年を飲んだ感想
インバーゴードン 36年
—宇宙列車に揺られるような、静かで長い甘さ—
グラスにそっと触れただけで、
甘さの輪郭がやわらかく浮き上がってくる。
まず来るのは “べっこう飴”。
懐かしさのある、あの黄金色の甘さがまっすぐ喉の奥に伸びていく。
そこからゆっくりと“わたあめ”がとけるようなニュアンス。
甘いのに軽い。
軽いのに残る。
まるで36年という時間が、砂時計の砂ではなく、
甘さそのものになって沈殿していったみたい。
49%とは思えないほど舐めらかで、
角が消えた液体は、ただただ静かに舌を流れていく。
「甘いウイスキーってどれ?」と聞かれたら、
間違いなくこのインバーゴードンを差し出す。
ロックでもいいけれど、
ストレートでゆっくり“時間の味”を確かめるのが一番いい。
ソーダにすると甘さがスッと後ろに引き、意外なくらい飲みやすさが増す。
これはこれで新しい表情。
36年熟成のグレーンは、ときに派手さを持たない。
だけどこのボトルは、
派手じゃないのに忘れられない “余韻の作品”。
やっぱりインバーゴードンは良い。
年を重ねるほど、甘さが哲学を帯びていく。
2025/12/02
2025/12/02(火)営業日誌
「自由研究と、夜の続き。」
12月に入った赤坂の夜は、少しだけ湿った静けさを連れてくる。
今日のカウンターは、顔馴染みの常連たちがゆったり腰を落ち着け、
まるで“宿題の続きを一緒にやる友人のように”会話が続いていた。
話題は池袋の家系ラーメンのランキング、
今年のウイスキーフェスティバルの思い出、
そして——八王子フェスで楽しみすぎて
チケットを買い逃したという笑い話。
行けなかった人も、行けた人も、
まるで同じ教室にいたかのように感想を交わす。
その光景を眺めながら、
「不参加でも、お客様のSNSで参加した気になればいいか」
と心の中でひっそり頷いた。
21時を過ぎた頃、扉がそっと開いた。
「さっきまで会社の飲み会だったんですけど……
一杯だけじゃ帰れないなって。通り道なので来ました!」
「実は部署が違うんですけど、飲み会で“お酒好き”が発覚して
2次会どこ行く?って話になって……連れてきました!」
ふたりの声が重なって、夜が少しだけ明るくなる。
カウンターと個室にお客様が入り、
赤坂の小さなバーはまたひとつ物語のページを開いた。
⸻
✦ 女子会のような会話が
「彼女、実はウイスキー集めてるんですよ!」
「でもここにあるの、見たことないボトルばっかり……
目移りしちゃいますね」
棚を眺める横顔が、子どものように無邪気だ。
「今日……自由研究プランにします!」
「えっ、自由研究?なにそれ、気になる!」
1杯目の説明をしながら、こちらまでワクワクしてしまう。
「……これ、5000円?安っ!!
7000円でも見たことありますけど、
この内容で5000円は聞いたことがない……」
「通いますね。ふたりでまた来る!
来週……空いてる日ありますか?」
女子のスケジュール確認は、
いつ見てもカウンターのどのボトルより速い。
「またプチ女子会しよ!
会社終わりじゃなくても行けるよね。
赤坂、開拓しない?」
そう言いながら、
ラーメン、チャーハン、カフェ……
“赤坂散歩の地図”を勝手に描き始めている。
⸻
✦ 最後に、ふと漏れたひとことが
今日いちばん胸に残った。
「ウイスキーって、面白いですね。
ピート……初めて知りました。
自由研究プランも“赤坂ニート・ハイボール”も、すごく楽しい。
……また教えてください!」
その言葉に応えるように、
風のない夜に静かに「ありがとうございました」と見送る。
扉が閉まると、
今日の物語がふっと一段落した。
⸻
✦ 次のページは、明日。
12月3日(水)
カウンターは🈳3席。
また新しい物語が
静かに、どこかでドアを開けようとしている。
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2025/12/01
2025/12/01の営業日誌
12月の最初の月曜日。
扉を開けば、いつもの個室がすでに温まっていた。
常連のメンバーたちが並び、
今日はその上司まで連れてきてくれたという。
紹介が紹介を呼び、人が人を招く。
広告費ゼロの、静かで確かな広告塔たちだ。
「ここなら新人を連れてきて、飲み方も教えられるだろ」
そんな声が自然と出る空気。
個室が持つ“人数の伸びしろ”が今日も力を発揮した。
上司は最初の一杯をゆっくりと味わい、
「このハイボール、美味しいな……」
と静かに目を細める。
今日は“飲みやすい一杯”が心に触れたようだ。
ウイスキーの扉は、押すときよりも
そっと触れた瞬間に開くことがある。
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そのあと、
カウンターにふらりと来られた別のお客様が
こう言った。
「実は、東京に来るたびに紹介したい店があって……
ここなんです」
個室が空くまで、しばしカウンターへ。
そのわずかな時間でさえ、
棚のアニメラベルに目を輝かせてくれていた。
「これ、エヴァのラベルですよね。
値段とか関係なく、ただ“好き”で置いてるのが伝わるなぁ。」
そう言って笑う横顔を見ながら、
“好きという熱”は距離を超えて届くものだと思った。
そして、個室が空くと、
「ああ、この落ち着きとゆったりとした空間。
ここで商談も、部署の飲み会も助けられましたよ」
と自然に口にしてくれた。
紹介してくれる人がいて、
その人がまた誰かを連れてくる。
こちらが宣伝する前に、
勝手に説明してくれる——
そんな時間が、今日も流れていた。
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最後に、常連のひとりが言った。
「ここの PB ボトルもね、
甘いのとか、香り強めとか、伝えると選んでくれるんですよ。
私もう何杯も飲みました」
その言葉に、
信頼というものは“売る前”ではなく
“売った後”に積み重なるんだと改めて気づかされた。
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静かな月曜日。
リピーターに支えられ、
温度のある時間に助けられた一日。
“赤坂ニート・ハイボール”も、
“ウイスキー自由研究”も、
まだ物語の途中。
ここから先、どんな世界まで届くのか。
12月2日(火)
予約はまだゼロ。
それでも、明日もまた
知らない誰かのドラマがカウンターの前で始まる気がする。
今日も静かに、明日を待つ。
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2025/11/29
11月29日(土)の営業日誌
◆ 今日のハイライト──満席のカウンターで
今夜のカウンターは珍しくご予約だけで満席だった。
いくつかお断りしてしまったのは申し訳ないけれど、
それだけこの空間を求めてくれる人が増えたのだと思うと、胸の奥があたたかくなる。
「このあと予定があって…それまでここで飲んでいたくて」
「ずっと気になってたウイスキーを飲みに来ました」
そんな言葉を聞くたびに、
日々の発信が誰かの夜に届いていることを実感する。
自由研究のカウンターは、今日も静かに賑わっていた。
「秩父のイチローズモルトって、こんな味わいなんですね…」
驚いたような、嬉しそうな表情。
その瞬間を見られるだけで、この店を続けてよかったと思える。
そこへ、別のお客様。
「ウイスキー初心者の友人を連れてきました。
色々試して楽しんでもらえたらと思って…」
こういう“誰かを連れてきたい店”になったことが、
何より嬉しい。
そして始まった今日の研究テーマは「シェリー酒」。
オロロソ、ペドロヒメネス、フィノ、クリーム。
ウイスキーを育てる樽の“元の味”を辿る小さな旅。
「……え、これ好きです。
もうペドロヒメネス樽のウイスキーじゃなくて、
ペドロヒメネスそのものをボトルで欲しいかも…」
完全に扉が開いた時の顔だった。
ひとつの好奇心が、静かに世界を広げる瞬間。
「自分はクリームシェリーかな…これ美味しい」
そんな声も聞こえる。
ウイスキーだけじゃない。
その背景にある“物語”に触れた時、人はもっと自由になる。
夜も更けて、ふと懐かしい方が来店された。
話してみると、実に五年ぶりの再会だったという。
なのに不思議と“初めまして”のぎこちなさはない。
SNSのおかげで、時間の距離が曖昧になる──
そんな面白さも感じた。
スタンプラリーの参加者も来てくれた。
ただ無理はしてほしくないので、
先にスタンプだけ押してお渡しする。
「無理して飲まなくて大丈夫ですよ」と伝えると、
皆ほっとしたように笑う。
こういう優しい時間が、この店らしい。
気づけば、今週だけでカウンターに20名以上。
出会いが続くことは奇跡みたいで、でもそれが日常になっていくのがありがたい。
11/30(日)はお休みをいただきます。
また12月1日、
静かに灯るカウンターでお待ちしております。
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2025/11/29
11月28日(金)の営業日誌
今日の店は
冬の入り口らしい静けさをまとって始まった。
個室では
ワインをゆっくり傾けながら🍷
深く静かな会話が続いていく。
緩やかな温度だけが漂い、
その空気に呼応するように
カウンターにも人が流れ込んできた。
「こんなにライ系のバーボンを並べて飲んだの初めてですよ」
「イチローズのオロロソも面白いですね」
自由研究は、
その人の“知らなかった角度”を照らす灯りみたいなもので
味覚の中に新しい扉がひとつずつ開いていく音がした。
そして突然、
あの奇妙な話題が出る。
「この店といえば……GoogleのAIが生み出した“赤坂ニート・ハイボール”ですよね」
名物でもなんでもないのに、
もう“名物みたいな顔”をし始めているのがなんとも可笑しい。
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自由研究が進むたび、
お客は皆、自分の“偏り”から少し解放されていく。
「家やフェスだと、自分の好きな方向に寄っちゃうので……
こうやって少しずつ試せるの、本当にありがたいんですよね。」
選択肢の多さは、人を迷わせるのではなく、
“自分の知らなかった自分” に出会わせるのかもしれない。
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営業時間も終わりに近づいた頃、
またひとり、
会社の飲み会を終えたばかりの若い人が
疲れた足取りでカウンターに落ち着いた。
「同年代の飲み友達って全然いないんですよ」
「ここで20代の人に出会えるなんて……嬉しいです」
見知らぬ誰かと、
たまたま並んで座っただけなのに、
人はなぜかすぐ心を開くことがある。
バーという場所が持つ、不思議な作用だ。
そのうちに
いつも最後に出てくる“ラーメンの話題”になり、
空腹感だけが優しく残る。🍜
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そして今日は、
未来の樽の話まで飛び出した。
「最近プライベートカスクの話をよく聞くんで……
もし面白い樽があれば、自分も出資しますよ。」
樽を“みんなで買う時代”が来るなんて、
10年前には想像もしなかった。
けれど、こうして自然に話題に上がるあたり、
ひとつの信頼が育っている証拠でもある。
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最後に、
今日出会った2人が
ちょっと照れながら言葉を交わした。
「また会えたら嬉しいです。」
「赤坂だから来やすいし……本当に良かったです。」
こういう瞬間を見ると、
店は飲む場所ではなく、
“人生の季節が交差する場所” なんだと思う。
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カウンターには馴染みの顔があり、
そこに新しい顔が静かに混ざっていく。
この“流れ”がある限り、
店はずっとゆっくり成長していくのだろう。
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◆ 【お知らせ】
11月29日(土)
カウンターはご予約で満席です。
個室のみ空いております。
土曜日らしい、
平日とも少し違う“のんびりした時間の流れ”で
静かに飲みたい方は、
個室にてゆるりとお過ごしください。
お待ちしております。